第3話 アキツグ強化

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 翌日、バン! と大きな音とともに部屋の扉が開け放たれる。

 何事かと思い俺はベッドから起き上がると、

「さあアキツグ! 朝食を作るわよ!」

 と勢いよく多慈美が入ってきた。

(朝っぱらから元気だなぁ)

 寝ぼけ眼でそんなことを思いながら、欠伸を一つして返事をする。

「ふぁい……」

「じゃあまずは顔を洗ってきてちょうだい」

 外はまだ日が顔を見せておらず、空も薄暗かった。

 言われた通り洗面所に向かい顔を洗う。

 冷たい水が顔にかかり意識がはっきりとしてくる。

 タオルで濡れた顔を拭き鏡を見ると、そこには見慣れない俺の顔があった。

 もしかしたらこの顔も今日で見納めかもしれないと思うと少しだけ寂しい気持ちになった。

 そんな気持ちをかき消すように両頬を叩き気合を入れる。

 よしっ!と心の中で叫び、キッチンへと向かった俺は、さっそく調理に取り掛かる。

「まず食材を切るんだけど、包丁はこうやって持って、左手は猫の手みたいに丸めるのよ」

「こうか?」

「そうそう、それで切る時は猫の手のまま手を前後に動かして切っていくの」

 多慈美の動作を見ながら、見よう見まねでやってみる。

 しかしこれがなかなか難しいもので、思うように切れなかったり力加減を間違えたりして苦戦を強いられる。

 だが徐々にコツを掴み始めると次第に手際が良くなり始めた。

 野菜を切り終えフライパンに入れると油を引き火にかける。

 そしてベーコンも投入するとパチパチという音が鳴りだす。

 しばらく炒めていると香ばしい匂いが部屋中に充満する。

 その匂いに釣られて俺の腹が鳴る。

 その音を聞いた多慈美はくすくすと笑う。

 恥ずかしさのあまり顔が熱くなるのを感じた俺は思わず顔を逸らす。

 どうやら焦げ付きもなくいい具合に焼けているようだ。

 皿に盛りつけテーブルへと運ぶ。

「おおー!凄いじゃない!初めてにしては上出来だわ」

「ありがとう」

「さ、冷めないうちに食べちゃいましょうか」

 いただきますと言い、俺たちは目の前の料理を頬張る。

 一口食べるたびに口の中に広がる肉の旨みがたまらない。

「凄い……私の料理より美味しいじゃない……」

 多慈美に褒められ照れくさくなる。

 夢中になって食べているうちにあっという間に平らげてしまった。

「ごちそうさまでした」

 皿を流し台に置き部屋に戻ると、身支度を整え家を出る準備をする。

「忘れ物はないかしら、薬草や携帯食料、必要な物は持った?」

「大丈夫だと思う、昨日ヒノキの棒を折っちゃったけど、新しい武器は――」

「そうね、それじゃ――」

 多慈美はリビングの隅の押し入れを漁ると一本の棒を手にする。

「トレーニング用の剣よ、形状は私の剣と一緒、軽いからアキツグでも使えるはずよ」

 そう言ってトレーニング用の剣――もといヒノキの棒を渡してくる。

 俺はヒノキの棒を手に入れた。

「それじゃあ行きましょうか。街を出る前にギルドに寄ってステータスカードの更新をしていきましょう」

 ステータスカードを更新しないとレベルが上がったかも、スキルを習得したかもわからない。

 昨日は魔晶石の換金ですっかり忘れていた。

 俺たちはギルドへ向かい、受付嬢にステータスカードを渡す。

「――確認終了いたしました。こちらが新しいステータスです」

「裏面に追記事項がありますので、ご確認ください」

 受付嬢から借り発行されたステータスカードを受け取ると裏面の追記事項を確認する。

『剣術Lv.1』を獲得しました。

『魔術工学師見習いLv.2』を獲得しました。

【獲得可能スキル一覧】

 ・基本属性魔術(炎熱、氷結、大地、風旋)

 どうやらランクアップしスキルを獲得したようだが、魔術を使えるようになった感触が無い。

 受付嬢にスキルについて聞くと1枚の紙が手渡された。

《詳細》スキルはレベル1~4まで存在し、1つにつき3Pが必要です。

 レベルアップごとにポイントを割り振ることで次のステップに進むことができます。

 スキル習得時に複数の候補から選択される場合、受付嬢にお声がけください。

 また、各項目は熟練度に応じて成長します。

(例)剣術の場合、剣を振るえば振っただけ経験値が入ります。

(例)基本属性魔術の場合、魔法を習得すればするほど威力が増していきます。

(例)上級職の場合は一定の条件を満たすことにより昇格できます。

(例)戦闘系の職業に就いている場合、体力や筋力の成長率が上がることがあります。

(例)生産系職業に就いている場合、手先の器用さが上がります。

(例)魔法関連の職業に就いている場合、魔力量が上昇します。

 どうやら俺は基本属性魔術を習得したらしい。

 俺は受付嬢から渡された紙から顔を上げ、隣にいる多慈美にスキルについて相談する。

「基本属性魔術を習得できたらしいんだが、何が良いかな?」

「そうね、私は戦闘スタイルに合わせて選んだ、というより風属性以外に選択できなかったんだけど」

 うーん、と多慈美は考え、

「アキツグは自分の好きなスキルを習得すれば良いと思うわ!」

 結局自分で選ぶこととなった。

 気になることを続けて質問する。

「この『魔術工学師見習い』ってなんだ?」

「職業のうち生産系と魔法系を併せ持った職業ね」

「――ってことは戦闘もできる万能な職業なのか?」

 剣術でボロボロだった俺は期待を込めて受付嬢に聞いた。

「いえ、戦闘能力は低く、どちらかと言えば生産系職業になります」

(せっかく多慈美とパーティを組んだのに、役立たずのままじゃないか……)

 落ち込む俺に

「純粋な生産系職業にも、生産スキルの面では劣りますね……」

 受付嬢はさらに追い打ちをかけてくる。

「いいじゃないの、魔術工学師見習い。生産系の才能があるから私より料理が上手だったんだわ」

 多慈美のフォローが落ち込んだ俺の心を救ってくれた。

 習得できる基本属性魔術をどれにするか悩み、俺は『炎熱』を選んだ。

 料理などの日常でも使えて汎用性が高そうだったからだ。

「一度選ぶと上級職か転職するまで変わりませんよ」

 と受付嬢は念を押す。

 多慈美の役に立ちたくて選んだスキルだ、後悔はない。

 わかりました、と受付嬢は様々な処理を行い、最終的な俺のステータスカードが発行された。

 (俺のステータス構成はこんな感じだな)

 ============

 名前:アキツグ

 種族:人族

 年齢:22歳

 ランク:E

 職業:なし

 Lv:2

 HP:10/10

 MP:30/30→32/32

 STR(筋力):12

 VIT(耐久力):10

 AGI(敏捷度):11→12

 DEX(器用度):9→10

 MAG(魔力):2→3

 LUC(幸運度):20

 CHA(カリスマ度):6→5

 メイン武器:ヒノキの棒

 サブ武器:なし

 頭 :鋼の兜

 胴 :皮の胸当て

 腕 :皮の手甲

 足 :皮のブーツ

 装飾:なし

 所持金:0G

『剣術Lv.1』を獲得しました。

『魔術工学師見習いLv.2』を獲得しました。

 ・基本属性魔術【炎熱】を習得しました

 ============

 期待していたHPを始め、防御面での成長は見られなかった。

「ゴブリンの攻撃が当たったら危ないのは変わらないね」

 頭の後ろに手を回しながらいたずらな笑みを浮かべていた。

 今日はダンジョンに潜る予定のため、行き先を記載した紙を受け付け横にある箱に投函し、ステータスカードの更新が終わった俺たちはギルドを後にする。

 街の出口へと歩を進める途中、冒険者たちにすれ違うたび声をかけられる。

「よう兄ちゃん! 今日もデートかい?」

(デートではないのだが……)

 そんな俺の心中を察することなく隣を歩く多慈美はニコニコと嬉しそうに笑っていた。

 多慈美の笑顔を見てしまえば否定などできず、ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 俺の心境を知ってか知らずか多慈美はご機嫌な様子で鼻歌交じりに足を進める。

 しばらく歩き、街の外へ出て門から少し離れたところで歩みを止める。

「ねえ、アキツグ」

「ん? どうした?」

「あなた、冒険者になったばかりでしょ」

「ああ」

「ならまずは装備を整える必要があると思うのよ」

 確かに今の格好だと心許ない気がする。

 今着ている服も、布製のシャツに麻でできたズボン、そして皮のブーツといった山中で倒れていた時の物だ。

 さらに言えば、昨日までの俺は無一文であり何も持っていなかった。

 多慈美は三歩だけ前に歩くと振り返ると、両手を上げて高らかに宣言した。

「今日はアキツグの装備を整えるため、金策をします!」

「お、おう」

 いきなりのことで驚いたが、言われてみれば当然である。

 装備を整えるためにはお金が必須。

 お金を集めるために売却用のアイテムや素材が必須。

 そこから導き出される結論は……

「今日はそのためにダンジョンに潜るのか!」

「そうよ! それに今日行くところは初心者向けのダンジョンだから安心しなさい!」

 そう言って自信満々に胸を張る。

 言うまでもなく俺は不安でいっぱいだった。

 俺は弱い、ゴブリンにすら勝てなかったからだ。

 いくらレベルが上がったとはいえ、それはあくまでゲームの話であって現実では通用しないだろう。

 幸いなことに魔物と遭遇することなく目的地に着いたようだ。

「ここが今日の目的地よ」

 そこは草原の中にひっそりと佇む小さな洞窟だった。

 入口の両脇には石柱が立ち並び、その奥には暗闇が広がる。

「これがダンジョンの入口か……」

「ええ、ここから先はいつ魔物が現れるかわからないから気を引き締めていくわよ」

 緊張からか喉が渇くのを感じる。

 ごくりと唾を飲み込むと一歩を踏み出した。

 ――第一階層。

 ここは初級者向けということもあり、出現する魔物は全て最弱のスライムのみのようだ。

 そのスライムだが見た目は非常に可愛らしく、ぷるんっとしたゼリーのようなボディが特徴だ。

 しかし侮ることなかれ、油断して近づいた者は一瞬にして溶かされてしまうそうだ。

 そのため、他の冒険者たちも遠くから様子を伺っているだけで近づいてこようとしない。

「さっ、行きましょ!」

 俺を置いてスタスタと進んでしまう。

「ま、待ってくれー!」

「大丈夫よ! 1体くらいなら勝てると思うわ!」

 そんなやり取りをしている内に最初のスライムが現れた。

 大きさとしては50センチほどで愛くるしい瞳とぴょこんと跳ねた耳を持つ姿は見る者に癒しを与えることだろう。

(いや、俺には効かないぞ!)

(でも可愛いじゃないか……)

(いやいやいや)

 葛藤している中も、容赦なく戦闘は進んでいく。

「えいっ」

 ドガッという鈍い音と共に一撃で倒してしまった。

 いや待て、俺はまだ戦うともなんとも言っていないんだが……

 俺は抗議の意を込めてジト目で見つめると「なに?」と言わんばかりに首を傾げるだけだった。

「この調子でどんどん倒しちゃいましょう」

(どうやら俺に拒否権は無いらしい……)

 愛くるしい生物がいたところにゼリー状の塊が落ちていた。

 多慈美は袋から空き瓶を取り出すと、スプーンで救って入れ始めた。

「これは『スライムの涙』って呼ばれてて、倒すと時々手に入るのよ」

『スライムの涙』――何ともかわいそうな名前である。

「この瓶一ついっぱいにすると銀貨3枚にもなるわ、魔物や家畜の皮を処理するために必須なんだって」

「ちなみに今まで何匹倒したんだ?」

 そう問いかけると、指を折りながら数えている様子に嫌な予感を覚える。

 10を数えたあたりで諦めたらしくこちらに向き直り口を開いた。

「――100よ」

 100!? 驚きの数字に目を白黒させていると、

「あ! もう次のが来たわよ!」と俺の腕を引っ張る。

 目の前には先ほどと同じ個体と思われる半透明の物体がいる。今度は俺が攻撃する番だ、と思い近づくと――。

 ポヨンとした身体からは想像できないほど素早く、俺の足元まで来ると飛び跳ねた。

(あっ!)と思った瞬間だった。俺の腹部目掛けて体当たりしてきた。

 予想外の衝撃と共に身体が宙を舞う。そのまま壁に激突する。

 肺から空気が一気に押し出され、呼吸が一瞬止まる。あまりの痛さに言葉にならない声が漏れる。

(痛い痛い痛い痛い!!!)

「何してるの! せっかく『炎熱』を習得したのだから使いなさいよ!」

 多慈美からの檄が飛ぶが、痛みで立つこともできない。

 痛みの中、再び近づいてくる音に気づく。

「くそっ、ここまでか……」

 死を悟った瞬間だった。目の前のスライムが飛び上がり攻撃をしてくる気配はなかった。それどころか跳ね上がることもなく、その場に鎮座したままだった。

 何が起こったのかわからず呆然としていると、後ろから声が聞こえる。

「そんなに距離を詰めたら、魔術を使う余裕ないじゃない」

 多慈美が呆れた表情をしていた。

 そんな表情で見つめられると居た堪れない気持ちになり顔を背けてしまう。

 多慈美は瞬きをしている間にスライムへ近づく。

 剣で一閃するとあっけなく倒してしまう、まるで相手にもなっていないようだった。

「何をやってるのよ……」

 ため息交じりに多慈美が言うと、腰から取り出した小瓶へと『スライムの涙』を入れていった。

「それにしても弱いわね……こんなんで本当に大丈夫かしら……」

(やっぱりそう思うよね……)

 俺は心の中で思いながら苦笑いをするしかなかった。

 「まあでも、レベル上げればどうにかなるでしょ!とりあえず進むわよ!」

 彼女はそう言いながら俺の手を引く。

「や、薬草を……」

「あ、忘れてた」

 多慈美は鞄から、事前にすり潰していた薬草入りの瓶を取り出すと俺に手渡した。

「今度こそ進むわよ!」

 俺たち――主に多慈美はスライムを倒しつつ順調に歩みを進める。

 そして第二階層への階段を見つけたところで小休憩を入れることになった。

 携帯食料を食べつつ話をする。

「さっきの戦いだけど、どうして魔法を使わなかったの?」

「実は魔法の使い方がよくわからなくて……」

「えっ!?」

 多慈美が目を丸くし驚愕といった表情をしていた。

「講習で習ったと思うけど、もしかして、忘れた?」

「うん」

 俺の返答を聞くなり頭を抱える。しばらく考えた後、何か思いついたのか勢いよく顔を上げると話し始める。

「わかったわ! 私が教えてあげるわ!」

 そう言うと多慈美は残った携帯食料を一気に口に入れると、俺の手を握り歩き出す。

 多慈美の頬に付いた赤いソースが愛おしく思えた。

「まず最初に魔力を感じ取れるようにならないとね」

 歩きながら説明を始める。

「そうね……例えばここに小石があるでしょ? これに意識を集中してみて」

 言われた通りに集中すると、何やらモヤモヤしたものを感じることができた。それを意識しつつ、周りを見渡すと様々な物にモヤモヤを感じることができるようになっていた。

「そのモヤモヤした物が魔力よ、それが感じ取れたら次は――」

「手のひらをそっちの壁にかざしてみて」

「こうか?」

 おれは右手を壁にかざす。

「手のひらから炎が出る様子をイメージしてみて」

(手のひらから炎が出る様子、手のひら炎が出る様子……)

 目を瞑り壁に向かって念じていると、不意に手のひらが熱を帯び、周囲が明るくなった。

「できたじゃない!」

 多慈美が歓喜の声を上げる。

「おぉ……」

 驚いたのも束の間、炎は消えてしまった。

「まだ習得したばかりだから、上手くコントロールできてないわ。集中力を切らせたらだめよ」

「わかった」

 その後、何度も繰り返し練習をしたが、一向に成功する兆しは見えなかった。

 炎を出せても持続して出すことができなかった。

「今日はこれくらいにしておきましょうか」

 多慈美はそういうと手を叩き立ち上がり、洞窟を引き返す。

「これからどうする?」

 洞窟内の帰り道で多慈美に尋ねる。

 多慈美からの返答を待つ間、今日の戦闘を思い返すことにした。

 何度思い返しても結果は変わらず、やはり最弱のスライムすら倒すことができず、最終的には薬草を服用することになるのだった。

 この状態が続くのであれば早急な対応が求められるだろう。

(このままでは生活ができない……せめて自衛できる力くらいは身に着けないとまずいな)

 思考を巡らせるうちに彼女が答える声が聞こえたので顔を上げる。

「今日はもう街に戻りましょう」

 冒険好きな多慈美とは思えない発言だった。

「朝から頑張ったんだもの。早く寝て明日に備えましょ」

 いつものように笑顔を見せる多慈美の顔が、いつも以上に明るく見えた。

 洞窟から出ると、空は夕焼けに染まっていた。

(この時間帯が一番危険だな……)

 そう思いながら帰路に着くことにした。

 しかし、街にたどり着く前、嫌な予感が的中してしまった。

 魔物に遭遇したのだ。相手はゴブリン二体。

(戦うしかないのか……いや、だめだ!)

 そう思いつつもゴブリンからの攻撃を避ける。だが避けるだけで精一杯だ。反撃する余地がなかった。そんな俺を嘲笑うかのように次々と攻撃してくる。

 一体が俺の背後に回るのが見えた。背後に気を取られている隙にもう一体が攻撃を仕掛けてくる。

 何とか身体を捻り直撃は避けたが、左腕に激痛が走る。

 見ると腕は紫色になっていた。

「早く薬草を――」

 薬草を取り出す暇もなく攻撃が来る。

 手が滑り薬草の入った瓶を落としてしまった。

 俺はパニックを起こしていた。

 草に阻まれ薬草は見えず、回収している隙も無かった。

 頭の中に浮かぶのは逃げることだけだった。背を向けて必死に走るもすぐに追いつかれてしまう。

 もはやここまでかと諦めかけたその時、ゴブリンが吹き飛んだ。恐る恐る振り返ると多慈美が立っていた。どうやら多慈美が助けてくれたようだ。

 彼女の表情からは感情が読み取れなかった。恐怖のあまり思考が停止していたのだ。

「せっかく二対二の闘いだったのに、二体とも私を無視してアキツグ君のところへ行くなんて、嫌んなっちゃう」

 どうやら自分が相手にされなかったことが不満のようだ。

 足元に一体、離れたところにもう一体のゴブリンの屍が転がっていた。

 あっ、と多慈美は声を上げ離れたゴブリンのところへ向かうと、しゃがみこみ何かを拾い上げた。

「見て、これ!」

 多慈美が空高く掲げたのは見覚えのある結晶体――魔晶石であった。

「思わぬ収穫だったわね」

 多慈美は子供のような笑顔を振りまきながら近づいてくる。

「それも売ってお金にするのか?」

「ううん、これはね――」

「アキツグにあげる」

 そう言うと、手に持っていた物を俺に手渡してきた。

「え!? いや、それは……」

「だって、今の私には不要なものでしょ?それに私は剣が使えるから武器はいらないし、防具にも困っていないもの」

 確かに今の俺たちには必要のないものだった。金さえ稼げればそれでよかったのだ。ただ――

「いいのか? 俺何もしてないけど」

 彼女の表情は先ほどとは打って変わって真剣そのものであった。

「アキツグは魔術工学師見習いだから、魔晶石で武器を作れば魔術も強化されるはずよ、だから持ってて」

 俺は言われるがまま魔晶石を握り締めた。魔晶石の温かさを感じたような気がした。そして不思議なことに手に馴染んでいくような感覚があった。

(なんだか安心する……)

 多慈美は満足げな表情を浮かべている。

 街へ戻ると辺りは既に暗くなり始めていた。

 酒場や商店など、いくつか開いているお店もあった。

 俺たちは忘れないうちにギルドでステータスカードの更新を行う。

 足早に多慈美の家に帰り、昨日の夜ご飯のシチューの残りを食べる。

「じゃあまた明日ね」

 多慈美はそう言うと手を振り自らの部屋へと戻っていくのであった。

 その姿を見送りながら考える。自分のステータスやレベルについてである。

 この世界において経験値を得ることによりレベルアップすることは確認できた。

 問題はどうやってレベルを上げるかだ。

 自分ひとりであればこのままでもいいだろう。

 しかし今は違う、多慈美という同居人がいる。もし万が一にでも彼女に何かあったら、そう考えずにはいられなかった。

 ――もっと強くならなくては……

 そんなことを考えているといつの間にか眠りに落ちていった。

 アキツグの冒険者生活三日目はこうして幕を下ろした――

 

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 名前:アキツグ

 種族:人族

 年齢:22歳

 ランク:E

 職業:なし

 Lv:2

 HP:10/10

 MP:32/32

 STR(筋力):12

 VIT(耐久力):10

 AGI(敏捷度):12

 DEX(器用度):10

 MAG(魔力):3

 LUC(幸運度):20

 CHA(カリスマ度):5

 メイン武器:ヒノキの棒

 サブ武器:なし

 頭 :鋼の兜

 胴 :皮の胸当て

 腕 :皮の手甲

 足 :皮のブーツ

 装飾:なし

 所持金:0G

【剣術Lv.1】

【魔術工学師見習いLv.2】

 基本属性魔術:【炎熱】

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