第1話 追放と出会い

WEB小説

「――あんたなんかいらない」

 全身を黒いローブに見を包み、顔まで隠された女性は、一人の痩せた男にそう告げた。

「そんな……どうして! 今まで一緒にやってきたじゃないか! 困っている人を笑顔にし、不毛の土地を緑豊かに変え、人々の為に最後まで戦うと、約束したじゃないか……それを……どうして!」

 痩せた男は伝えられた事実を飲み込めず、うまく言葉にできなかった。

「そういうところ、腹立つのよね。最近はうちのパーティも人気で、『入りたい』って人が腐るほどいるんだから。」

「それで試しに会ってみたら、『あんたが使える魔術』は全部使えて、『あんたが使えない魔術』も使いこなせる、いい魔術師がいたのよ」

「試しに闘ってみる?」

 顔を隠した女は悪戯な笑みを浮かべると痩せた男に持ち掛ける。

「いや……遠慮しておく」

 痩せた男は大人しく引き下がった、自らがよく知る女性がそこまで言うのであれば、勝てる訳がないことが分かっていた。

「あんたとはここでお別れよ」

 女性はそう言うと奥から筋骨隆々な男を呼ぶと、痩せた男の両腕を一本の丸太の後ろで縛らせた。

「な……何をするんだ」

 痩せた男は自分がどうなるか、長く共に居たの女性の考えが、理解できなかった。

 必死に抵抗するが、丸太に縛られ身動きが、取れない。

「さようなら。もう二度と顔を合わせることも無いわ」

 そう女性が呟くと、筋骨隆々の男は丸太ごと男を持ち上げ、底の見えない谷に投げ捨てた。

(どうしてこんなことに……)

 その問いに答える者はなく、男の姿は奈落の底へと消えて行った。

 気が付くと、背中に硬くゴツゴツした感触と寝ているときにライトを直接照射されたような刺激があった。

 目をあけると無数の緑の葉が視界へ映り、風で葉が揺れると隙間から太陽の光が強く差し込む。

 自らの両手両足が動くことを確認し、その場を起き上がると足元は黒く舗装されていた。

 俺はここで一体何を……

 昨日のこと、過去のことを思い出そうとするが思い出せない。

 俺は一体どこの誰で、ここはどこなのだろうか。

 自分自身の記憶が完全に抜け落ちているように思える。

 自分自身の情報は無いかと着ている服のポケットを探るが、何も入っていなかった。

 せめて自分がいる場所の手がかりでも得られないか、と俺は周囲を見渡した。

 片側にはむき出しの岩々のある崖、反対側は木々が生い茂り、その先が崖となっているのかはわからなかった。

 そして道は片方が上り坂で片方が下り坂、足元は踏み固められた土、道幅は太く四メートル程度あるが、山の中にいることは明白である。

 期待していたような、答えにつながるような手がかりはどこにもなかった。

 持っていた鞄やアイテムが無いか、と淡い期待を込め、俺は道の端にあるどこまでも続く木製の板に手を置き、身を乗り出し木々の生い茂る土面に目を凝らしていた。

 しかしそこには何もない、手を置いた板が水分を吸って湿った感触が手に伝わる。

 ただその木の板は表面が滑らかで、木目が綺麗に揃っていることから、誰かが作ったものだということはわかった。

 10分ほど経過しただろうか。

 その場で手がかりを探している間、人はおろか車も動物すらも通らなかった。

 冷たい風が木々の間を吹き抜け、枝葉を揺らし、森林の静寂を打ち破る。

 このまま誰も来なかったらどうしよう、それどころか日が暮れたらどうする。

 山中で一人ぼっち、この状態に俺は危機感を抱き、下り坂をゆっくりと下ることにした。

 幸いにも外傷はなく、どこも痛まない。

 身体の様子を確認しつつ、焦らず走らず坂を下ると目の前に飛び込んできたのは大きく蛇行した道だった。

 蛇行した先は木々に遮られ見えず、むき出しの岩肌は蛇行した道に沿って一八〇度ターンし、路面は赤みがかった黒色の石材で舗装されていた。

「色彩豊かな道路だな」

 擁壁連続すると切れ目のない木々の緑が道を川のように魅せていた。

 俺は見たこともない鮮やかな赤と黒の模様に見とれていると、遠くからかすかに音が聞こえた。

 ――誰かいる――

 咄嗟にそう思ったと同時に俺は心の中で安堵した。

 誰もいない、どこかわからない山中、一人で歩き回ること30分、ついに人の気配、産業の息吹を感じることができた。

 音は次第に大きくなり、徐々に近づいてくることが分かった。

 周期的に、規則正しく気体が噴出する音。

 この音は……

 ――蒸気機関――

 (上か? 下か?)

 音の正体に予想がつき、自らの存在に気づいてもらおうと道の中央に飛び出した。

 すぐそこから音がするのに、縞模様の先からは何も現れなかった。

「上か!」

 俺は気が付き後方を見返すと、坂の上から見知らぬ機械が曲がりながら現れ、同時に機械は俺に向かって突っ込んできた。

 頭で何が起こったかを把握する前に俺の身体が勝手に動いていた。

 咄嗟に前転で回避を試みたのだ。

 背中に小さな石が当たる確かな感触があった。

 俺の体に強い衝撃を受けることも、意識が途切れることもなかった。

 後方でキュルキュルとけたたましい音と、続いて女性の罵声が鳴り響いた。

「ちょっと! そこのあんた! 山道で飛び出してくるなんてどういうつもりよ! 死にたいの?」

 女性は自らの右掌で、女性の前に付いた円形状の物を何度も叩きながら叫んでいた。

 何やら相当の剣幕で怒鳴っている。

 相当危ないことをしでかしたのだろう。

 俺は自分の犯した事の重大さを把握できなかったが、やるべきことはわかっていた。

「申し訳ございません。この地に来たばかりで不慣れなもので……」

 謝罪と同時に深々と頭を下げる。

「不慣れも何も、飛び出したら危ないのは一般常識よ!」

 どうやら俺は一般常識に欠けているらしい、一体どんな教育を受けていたのだろう。

 そんな過去の自分を想像していると、女性は乗っていた機械から降りると俺の所まで小走りに走ってきた。

 よく見ると女性が乗っていた機械は四輪の自動車のようであった。

 女性は150センチほどの身長に長い黒色の髪、パンツスタイルにスニーカーを履いていた。

「あなた自殺志願者?」

 俺の元に来るなり、女性は唐突に物騒なことを言い始める。

「いえいえ、そんなことありません! どうしてそんなことを?」

「この道で山越えして隣街まで行くのに徒歩で丸一日かかるわ。あなたどう見ても手ぶらじゃない。そんな状態でこの道を通る人なんていないわ! あんたこんなところで何してるの?」

 女性は訝しむように俺を見ていた。

 なんとかその場をごまかそうとしたが、理由が思い浮かばなかった。

 今いる場所の知識を持ち合わせておらず、何も言い出せなかったのである。

 無言の時間が数秒続き、怪しさが徐々に増していく。

 答えに窮した俺は本当のこと、今の俺自身が置かれている状況について説明することにした。

「実は……何も覚えていないんだ。ここで何をしていたのか、俺自身が何者なのかも」

 女性は驚いた顔をし、足元から頭の先まで俺の姿を見る。

「あんた……怪我はないわね?」

 女性は今まで怒ったような様子であったが、いきなり声のトーンと速度が遅くなった。

「そうですね……特に痛いところはないですね」

 今になって怪我の様子を聞くか、と内心呆れていたが女性は申し訳なさそうに口を開いた。

「今ならまだ病院は開いてるわ。後ろに乗りなさい」

 そう言い俺の手を無理やり引っ張ると、女性は四輪自動車の左側に俺を乗せた。

「えっと……」

 使い方もわからない機械に乗り困惑している俺に

「そこ。掴んどいてね」

 と乱雑な説明だけ女性は投げかけ、レバーを下すと、下り坂の慣性に従いゆっくりと発進した。

 女性の口調と勝手に思い描いた性格とギャップのある滑らかな発進に戸惑いながら、心に余裕と安心が生まれた俺は女性に尋ねた。

「ところで、お名前は――」

「私の名前?」

「特に理由はないけど……ほら、せっかくだから知っておきたくて」

 不思議そうに聞く女性に対して、咄嗟に出た答えは不審者そのものだった。

 横に座る俺を一瞬見て、わずかに笑顔を見せながら女性は答えた。

「私は古川、古川多慈美よ」

 四輪自動車は加速しながら颯爽と山道を抜けていく。

 後方から吐き出された蒸気は大気に混ざり、崖下へと流れる。

「そういえば、あなたの名前をまだ聞いていなかったわね」

「……あ、はい。僕の名前は……」

 俺は自分の名前を言おうとしたが、思い出せないことに気が付いた。

「――です。よろしくお願いします」

 俺は咄嗟に思いついた名前を名乗った。

「よろしく、アキツグ君。でも不思議よね、なんであんな場所に一人で立っていたのかしら?」

「わかりません。気づいたらあそこにいましたので」

「そう……もしかしたら記憶喪失ってやつかしら。まぁいいわ、とりあえず街に行きましょう。話はそれからね」

 そう言うと、多慈美はアクセルを強く踏み込み、速度を上げた。

 ――これが後にパーティを組む多慈美と俺の出会いだった――

 白色のタイルで埋められた部屋に入ると、机を前にして白衣を着た白髪交じりの男性医師が羊皮紙に何かを書いていた。

 部屋に入った俺に気が付くとペンの動きを止め顔を上げる。

「はい。じゃあそこに座って」

 目の前の医師に促され、俺は円筒形状の椅子に腰かける。

 勢いよく座ろうとすると、座面が沈み込みながら左右へ回転し、危うく転落しそうになった。

「気を付けてね、病院でケガしないでよ」

 心配しているのかしていないのか、笑えない冗談を口にする。

「大変だったねぇ、山道で一人歩いてたんだってね、あそこは魔物も出るからねぇ」

 和ませようとして話しかけてくる医師に対して

「先生、本題に入ってください」

 俺はつい大人げないことを言ってしまった。自分自身のことが知りたかったのだ。

 医師は俺の方へ体を向け、あらたまると言葉を切り出し始めた。

「診断結果なんだけどね、特に外傷は無かったよ。そして――君の記憶のことだが、なぜ記憶喪失になったかもわからない」

「そうですか……」

「付け加えるなら、君はすこぶる元気健康だ。だからこそ、なんで記憶を失ったか、その原因はわからないんだ」

 決して期待していなかった。記憶がなくなった原因は不明が、まずは身体が無事なことを喜ぶべきだろう。

「この病院のカルテに、過去に君が受診した記録もなかったよ」

 俺の記憶のことも、情報のこともわからなかった。俺はこの街の人間ではないのかもしれない。

「この街には他にも病院がある。そこもこっちで調べておくよ。君のことがわかるまでこの街で家を探すなり仕事をするなりゆっくりすればいいさ。人生は長いんだ。なんならここに永住してもいいぞ」

 笑いながら医師が言う。

 確かに山奥で一人でいるより幾分マシな状態ではあるが、家もなければ仕事もない、何ならお金もない状態だった。

 思わぬ提案ではあったが決して悪い話ではなかった。

「これで診察を終わるけど、何か聞きたいことはあるかね?」

「いえ、今のところはありません」

 俺が答えると医師は机の上の書類を片付け始め、席から立ち上がると俺に向かって言った。

「そうかい? それじゃ何かあったらまた来なさい」

 医師はそういうと部屋の出口に向かい歩き始めたが、途中で立ち止まりこちらを振り返った。

「そうだ、大事なことを言い忘れてたよ。ここは『ハル』の街だ、聞き覚えはあるかね」

「いや、初めて聞きました」

 そうかい、と言うと再び歩き始める。

 しかし今度は扉の手前で止まり、顔だけをこちらに向けた。

「そうそう、もう一つ大事なことを言っておかないとね。君のステータスカードも無かったから、身体検査を基に新しく発行させてもらったよ」

「え!?」

 思わず声が出た。

「……ステータスカードって何ですか?」

 医師は笑いながら説明をする。

「ステータスカードは職業、名前、スキルや経験値、使える魔術について記載したものだ。自分自身の得意不得意を書いた身分証みたいなもんさ」

 そんな重要なことを忘れていたとは……やはり俺はどうかしているのではないか。

 自分の行動や言動に不信感を抱きながらも、医師の言葉を待った。

「君に新しいカードを渡しておくよ、失くすんじゃないぞ、無くすとダンジョンで死んでも身元不明で処理されるからな」

 現に俺は生きているが身元不明で処理されているところであり、自らの身をもって証明していた。

 医師はポケットから一枚のカードを手渡してきた。

 俺は両手で丁寧に受け取る。

 受け取ったカードは鋼板のような材質で、表面中央に青い文字で大きく名前が書かれていた。裏面には黒い枠の中に白い文字が並んでいる。

 書かれている内容は名前とレベルのみ、そして記載されたレベルは――1だった。

 引き戸を開け診察室を出ると、白い壁沿い、診察室の前に所狭しと並べられた長椅子に一人の女性――古川多慈美が座っていた。

 古川多慈美は出てきた俺に気が付いたようで、俺の方を見るや立ち上がってお辞儀をする。

 どういう意味のお辞儀か意図がわからなかったが俺もつられてお辞儀をしてしまった。

「怪我は大丈夫ですか?」

 山の中で初めて会った時とは打って変わって大人しい雰囲気の清楚系美人であった。

「怪我もなく健康だそうです。記憶に関してはわからずじまいでしたが……」

「そうでしたか……」

 両手に物を抱えた看護師が横をゆっくり通り抜ける。

 ふと狭い診察室前での立ち話は迷惑になると思い、古川多慈美へ声をかける。

「ここではなんですので――」

 俺たちは廊下を抜け、受付のあるロビーへと移動した。

 人が出入りできそうな大きな窓からは夕日が差し込み、窓の外には芝生と植物が植えられている。

 木から伸びた枝が隣の木へと伸び、木々と枝に囲まれた内側に下ってきた山道が見えていた。

 まるで自然が生み出す絵画である。

 誰もいないロビーの長椅子に庭の方を向いて腰かけると、右側に一人分の間隔を空け古川多慈美が座る。

 俺たち以外に患者はいないのだろうか。

 静寂を破ったのは俺ではなく古川多慈美の方だった。

「これからどうするつもりですか?」

「――そうですね……」

 正直、何をすればいいのか見当もつかなかった。

 自分が何者なのかもわからない、行く当てもない、お金もない状態でどうしたらいいのか皆目見当がつかないのである。

 答えに困っている俺を見て察したのか

「もしよかったらなんだけど……」

 と言いづらそうに言葉を続ける。

「しばらく私と一緒に暮らしませんか」

 予想もしない言葉に驚いた俺は言葉が出ない。

「もちろん無理にとは言いません! でも……ほら、お互い何も知らない同士だし、色々助け合えるかなと思って!」

 古川多慈美は早口でまくしたてるように言った。

「それはありがたいのですが……いいんですか?」

 いいわけがないだろう、こんな見ず知らずの男の家に一緒に住むなんて! だが古川多慈美の厚意を無下にするのも申し訳ない気がした。

「全然いいですよ! むしろ助かります!」

 どうやら本心のようだ、これ以上断る理由もないし、何より俺は嬉しかった。

「……それではお願いします」

 そう言うと、古川多慈美の顔が少し明るくなったように見えた。

「こちらこそよろしくね、アキツグ君」

 こうして俺と古川多慈美との共同生活が始まったのだった――

 2人は荷物を抱えながら坂道を歩いていた。

 道幅が広くなったり狭くなったりする度に、車が上下に揺れ動く。

 舗装されたコンクリートの道から土を踏み固めただけの道に切り替わる頃になると、次第に民家が増え始めた。

 家々からは明かりが漏れ、夕食の準備だろうか、煙突からもくもくと煙が上がっている。

「ここだよー」

 そう古川多慈美が指さす先には木造平屋建ての一軒家が建っていた。

 玄関の前まで来ると、古川多慈美は鍵を開ける。

「入っていいわよ」

 と俺を招き入れる。

 家の中に入るとまず最初に玄関があり、すぐ目の前にはリビングへの扉がある。

 リビングへ入る扉を開けると左手にキッチンカウンター、右手にソファー、部屋の中央にはローテーブル、正面奥の壁にはレンガ造りの暖炉が備わっていた。

 右側のソファの上の天井部には窓が設置され、外の明かりを取り込んでいた。

 左側の壁には扉が1つあり、トイレへと続いているようだった。

「ここが私の家ね、一人暮らししてるんだけど自由に使ってくれていいからね」

 俺は手荷物を適当な場所に置くとソファーに腰かける。

 座り心地は良かったのだが、どこか落ち着かなかった。

 理由は単純明快、他人の家にいるからである。それも女性と2人きりでだ。

 この状況に慣れないのは当たり前と言えば当たり前のことだった。

「今日はもう遅いし、簡単なものになっちゃうけど我慢してね」

 そう言うなり冷蔵庫を開け食材を取り出していく。

 その姿を見てある疑問が浮かんだ。

「あの……料理とか大丈夫なんですか?」

 俺の言葉に一瞬きょとんとした表情を見せたが、すぐさま顔を真っ赤にする。

「失礼しちゃうわね! 大丈夫よっ!」

 そのまま背を向けて料理をし始めたのを見て安心した俺は辺りを見渡す。

 壁には何本か剣がかけられているほか、棚の上に写真立てが置かれていることに気が付いた。

 写真に写っている人物は三人、一人は多慈美だった。残りの二人は写真が破れていて、頭部の部分が欠けてしまっていた。

 家族三人で写った集合写真だろうかの多慈美には笑顔がこぼれていた。

「これは私たちのお父さんとお母さん、写真はボロボロで顔も映ってないけどね。」

 振り向くと皿に盛り付けられたサラダを持った古川多慈美が立っていた。

 写真を見られた恥ずかしさからか、ややぎこちない笑顔でこちらを見ている。

 テーブルに皿を置くと対面に座る古川多慈美。

 お互いに軽く自己紹介をした後、食事をしながら互いのことについて話していた。

 食事の間、古川多慈美と会話をしていてわかったことは、

「私はこの街で『冒険者』をやっていてね、主にダンジョン内で取れる素材の採取をしているわ」

 ということだった。

 職業は『魔術師』『剣士』『騎士』等があり、古川多慈美は『剣士』であった。

 そしてこの世界において、魔物を倒すことで経験値を得てレベルアップしていくらしい。

 ちなみに俺が倒したモンスターも討伐報酬として一定の金額を受け取ることができるそうだ。

 また、一部の人間は固有魔術という特殊な能力を持っており、それを使って戦闘を行うのだという。

 例えば古川多慈美の場合、風属性の魔術を得意としており、特に速度に特化した攻撃が得意だと言っていた。

 他にも、

「レベルが上がるとスキルを覚えることがあるのよ」

 という話や、街についての話などを聞いた後、食器を片付け、俺はお風呂に入ることになった。

 着替えがないことに気づき、古川多慈美が押し入れにあった家族の服を貸してくれることになった。

 風呂場に入り服を脱ぐと鏡に映った自分の姿が見えた。

 顔は日本人に近いものの全体的に彫りが深く、髪は茶色く肌は白い。体格はやや細めといったところ。

「これが俺か……」

 改めて自分の顔を見ると違和感しかなかった。まるで別人になったような感覚だった。

 浴室内は湯気が立ち込め視界が悪い。

 シャワーノズルを手に取りお湯を出すと頭から被る。温かい湯が全身に染み渡る感覚と共に汚れや疲れが流れ落ちていくような気がした。

 風呂から出ると脱衣場にはバスタオルが置かれていた。

 身体を拭き髪を乾かすと服を着替える。

「サイズは大丈夫そうね」

 脱衣所を出るとソファーに座っていた古川多慈美が言った。

「はい、ありがとうございます」

 俺は頭を下げる。

「いいのよ別に、それよりこれからのことなんだけど……」

 顔を上げると真剣な表情の古川多慈美がいた。

「当面の間はこの家に住んでもらって構わないわ、でもその代わり家事を手伝ってもらうことになると思うけれどいいかしら?」

「もちろんです、何から何まで本当にすみません」

 そう言うと再び頭を下げた。

「いいのいいの、気にしないで、それに困ったときはお互い様よ」

 そう言って微笑む古川多慈美を見て少しほっとした気持ちになった。

 その後、今後の予定を話し合い、明日は朝一でギルドへ行き登録手続きを済ませることにした。

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