今日は月曜日でお休みの日。
少し早い時間から夕食をとっていると、 父が2階へとやってきた。
小さい子がするような「ちょうだい」のポーズをとっている。 私はテレビを消して近づく (肺に水がたまりやすい父の声は小さくて聞きとりにくいのだ)
「どうしたの?」と尋ねると、 いたずらっぽく「へへっ」と笑って「お恵みちょうだい」と言う。 「何が欲しいの?」と聞きながら ふとシャツを見ると裏返しになっている。 これは【舞台の幕が上がっている】証拠だ。 (認知症の父は、調子をくずし始める前に服を脱いだり着たりすることが多い)
「お金」と答える父に「うん、いいよ」と返すと。 ほっとしたような顔をする。 「何に使うの?」 「しばらく仲間と外で暮らす」 「へぇ〜、いいねぇ。旅行?」 「うん、みんな怒ってるんだよ。僕が会計やってたんだけど、お金が減ってるって…」 「そうか、分かったじゃあ、明日の出発前までに用意しておくよ」
舞台の演出とはいえ、リアリズムは大切だ。 何とかその場をしのぐにも、筋が通っていないといけない。
自分は突拍子もないことを言っていても、 こちらが突拍子も無い事を言うと、まともに相手にされていないと感じて傷つく。
「うん、頼むよ」という父。 「ちゃんと用意しておくから安心して」 「そうか良かった」
ここでちょっとした、いたずら心が起きる。 「明日は何時に出るの?」 「………」無言で必死に記憶をたぐっている顔が続く。
しまった! リアリティの度が過ぎた。 「いいよ、いいよ、どのみち朝だよね」と収拾をつけると、 救われたような顔をして 「うんそう。じゃね。すいませんね」と1階へ帰って行く。
食卓に戻ると、 夫曰く 「いいよって言った後、どうやって切り抜けるのかと思った。 明日は覚えてないかな?」
「たぶん覚えてないよ」と私。 「もし覚えてたらどうするの?」 「もう旅費は仲間の人に渡したから大丈夫。おこずかいだけ持ってく?って言って、何千円か渡すかなぁ」 「よくそう、ポンポン口から出るねぇ」
まるで詐欺師になったような気分の複雑な褒められ方だ(笑)
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